予備校商売は金のなる木
人件費を抑えて結果を出すカラクリ
ある医学部予備校の経営者が、「医学部予備校は、儲かる商売の中でも最も儲かる」と言っていました。
というのも、経営のやり方によっては、医学部予備校は「金のなる木」になるからです。
それは学費によるものです。
これは予備校に限らず、どの予備校にも言えることなのですが、経営者が頭を悩ませることのひとつに「人件費」があります。
だから、これをいかに抑えて顧客満足を得られるかが重要な課題となります。
そのため、大量の学生チューターを雇うことによって人件費を抑えます。
学生チューターは社員ではなく、あくまでアルバイトなので、時給千円代でまかなうことが出来ます。
高額なギャラを取る、優秀なカリスマ教師を1人雇うのであれば、チューターを10人以上雇ったほうが安上がりです。
国立大学の学生であろうと、医学部在籍の学生であろうと、アルバイトはアルバイト。
学生としても、スタバのようなカフェでアルバイトをするよりは「少し時給が高い」おいしいバイトだね、程度の認識で納得してくれます。
医学部の学生だからといって、東大理化三類の学祭だからといって、時給が5000円や1万円に跳ね上がるというわけでもありません。もっとも東大理IIIのチューターがいるということを売りにしている予備校の場合は、「広告塔費」として時給2000~3000円を払っているところもありますが、それとて、プロ中のプロである敏腕指導者を雇うよりは安上がりです。
そして、いわゆる名門と呼ばれる大学に通う学生を大量に雇えば、生徒にとっては10人、いや5人のうちの1人くらいは、相性の良い指導者を見つけることが出来るでしょう。
高校生や浪人生にとっての学生は、年齢が近いということもあり、ベテラン講師といえども40歳や50歳の年齢の離れた「大人」よりは親近感が湧くでしょうし、質問や相談もしやすいでしょう。
そして、安い人件費で雇っている学生アルバイトチューターが生徒の心を捉えれば、生徒はコンスタントに予備校に通ってくれますし、受験勉強に対するモチベーションもアップします。
そうすると、自然と勉強するようになりますし、勉強をすれば、学力がつき成績も上がる。
このような良い循環が、安い人件費で生まれる上に、生徒からも親からも感謝されるという寸法です。
有能だが高額なベテラン講師を雇うよりもコスパが良いですし、ベテラン講師の中には「こだわり」が強く口うるさい、いわゆる「面倒くさい」人種もいます。このような「面倒な人」の相手を会社側がする必要もないというメリットもあります。
講習会で儲ける
予備校にとっておいしいビジネスモデルはまだあります。
それは、オプションをつけることです。
夏期講習、冬期講習のような講習会や、合宿、さらに「特別〇〇週」といったイベントがそれにあたります。
基本的な学費のほかに、プラスアルファの収益を見込めますからね。
大手予備校から中小規模の予備校まで、いかにこれらのイベントや講習をたくさん生徒に「売った」かが、社内の査定や評価、そしてボーナスや昇級に露骨に反映されるところが多いです。
真の教育機関としての使命は「生徒の学力を上げること」「生徒を合格させること」が目的であるにもかかわらず、むしろ「生徒を合格させたが、講習などは取らせず、会社に利益をもたさなかった」社員は低く評価されるところも珍しくありません。
これは、実際に各方面から耳にタコが出来るくらい聞く話なのですが、某大手予備校、それも日本の予備校の中では3本指にはいる予備校に通っている生徒は、担当の先生から冬期講習の案内をされたそうですが、その講習の授業の何を取るべきかを迷っていたところ、「まずは15万円振り込むように親に言って。合格するためには、色々な授業を組み合わせてトータルで20万円以上の授業数を受ける必要があるんだけど、先生が工夫して15万円前後で君が受かるような授業の組み合わせを考えてあげるよ」と言われたのだそうです。
そして、当然15万円以内でおさまる授業の組み合わせはしません。
「いろいろ頑張ったけど、やっぱり、英語はこの講座とこの講座、数学はこの先生の講座も受けておくべきだと思うんだよね。合計で20万円になっちゃったけど、先に振り込んでもらった15万円じゃ足りないから、5万円をプラスして振り込んでくれないかな?」と生徒に働きかけるわけです。
そして、多くの親や生徒は、「たしかにお金はかかるけれど、5万円をプラスすることで大学に合格するんだったら仕方がない」と納得して追加料金を支払うわけです。
そして、振込みを薦めた社員は、生徒の学力を上げることよりも、講習会を売ったことで社内では評価されるわけです。
ヘタに学力が上がって、大学に合格してしまうよりも、ギリギリ・スレスレのラインで大学には落ち、また翌年度は同じ予備校に通ってくれるように仕向けるほうが、「予備校社員」としては高く評価されるのです。
受験生や親御さんにとってはたまったものではありませんね。
社員が定着しない理由
しかし、このようなことがあまりにも露骨に行われていると、悪い評判が持ち上がり、批判が集まることもあるので、そのあたりは巧妙に生徒や親に「営業」をかける予備校が少なくありませんし、そのようなノウハウも各予備校は持っているところが少なくありません。
教育への理想に燃えて入社したにもかかわらず、「ノルマ・ノルマ」の連続で、就職(転職)前に持っていた情熱がいつしか醒めて退職していく社員が多いのも頷けます。
そう、予備校は社員の定着率が意外に良くない業種なのです。
だから、ある予備校勤務の社員は、転職の際の面接で、履歴書を見た面接を担当する社員から「あなたは営業の経験がおわりなのですね、それは素晴らしい!」と言われて採用になったとのことです。「教育力」よりも「営業力」を重視しているわけです。
社員が辞めていく理由の大半は、「教育よりも金集め」を強要される職場環境と、「金集め」がヘタな社員に向けられる冷たい眼差し、そしてそのような空気にいたたまれなくなったことによるものが意外に多いものなのです。
大手、中小問わず、辞めずに予備校に勤務しつづけられる人は、自分の仕事は教育よりも営業と割り切れる人のほうが多いのかもしれませんね。
それでも富裕層は…
基本的な月謝のような学費に加えて、講習会や個別指導などのオプションをつけると、一般的な家庭にとってはかなりの出費になります。
特に医学部専門予備校となると、その料金の高さは桁外れになるといっても良いでしょう。
だから、医学部専門予備校は、その学費の高さが敷居になり、優秀でないが金持ちの生徒が受講するようになり、その結果、医師としての資質に欠ける人材が増えるという問題が生まれます。
まその上、医学部予備校は医学部入試の合格を保証するわけではなく、合格率が低いとしても返金制度がないことが一般的です。そのため、高額な受講料を払っても、合格できなかった生徒が多数出ることが当然なのですが、なぜか富裕層の親御さんたちは「うちの子をまた来年もよろしくお願いします」となることが多いのです。不思議です。
以上のように、予備校は(特に医学部専門予備校は)非常に儲かるビジネスである反面、問題も多く抱えています。
まとめ
これら諸問題を知り、学費や指導方針、成績や将来通うであろう大学の学費など、様々な要素をトータルしてよくよく考えた上で予備校選びをするべきです。
さらに極端なことを言ってしまえば、高額な費用をかけずとも、きちんとした自己管理が出来て集中力のある生徒は、合格してしまうものです。
今は受験に関しての様々な情報を書籍やインターネットで入手できる時代です。もちろん、大量の情報の中には、ニセ情報や眉唾インフォメーションも多いのですが、それらを見極め、信頼できる情報を精査し、信頼に足る勉強法さえ見つけて、あとはコツコツと勉強さえすれば、合格できることだってあるのです。
東大生や医学部生の全員が塾や予備校に通っていたわけではありません。
学校の勉強と、自宅での自習だけで合格している学生だって、少なからずいるわけです。
高額な学費を払って、予備校を肥えさせた上に試験に不合格になってしまうのであれば、そもそもの「予備校に通わなければ合格できない」という思い込みを捨てて、強靭な意志と圧倒的な努力でもって独学して合格するという選択肢も候補のひとつに挙げても良いのではないでしょうか。